撮影:H. ARAKI

これは自分の個展の時に常時流れっぱなしにするために作った人形アニメです。

なぜこれを作ろうかと思ったか? ということですが、実はこれは2作目で、グループ展の時に作ったのが最初です。他人の展覧会に行くと、当然ほとんど人がいなくて、作品を見てまわる時に作者の視線を背中に感じて、早々に引き上げてしまう。そういう気まずい展覧会は何とか避けたいと思ったのがきっかけです。せっかく来てくれたお客が、この場所に私はいてもいいんだ という何か理由になるものがあればと考えた末に、ビデオ作品があれば、少なくともこれが終わるまではここにいてもいいんだと思ってくれるんじゃないかと考えたのです。

私に作れるのは人形アニメぐらいだろうというより、それ以外考えなかったのです。その時作ったのが「MANIA IN THE ROOM」と言う作品で(そのうち紹介します)、その評判がよかったので、個展用にまた作ろうと決心したのでした。決心したのはよいけれど、はっきりいって人形アニメはとんでもなく時間がかかります。個展前の忙しい時に、何でまたこんなややこしい事をしようとするのか、我ながらアホじゃないかと思いましたが。一度手を出した事を途中で止めるのは習性としてできないタチなので、友人の馬場田君と委さんに手伝ってもらってやっと完成したのがこの作品です。撮影は今思い出しても背筋が凍る思いです。人形アニメを仕事にしている人たちが存在する事がとても信じられません! グルーミットなどの人形アニメを見ると、とても人間のやれる事とは思えません。ましてや「はなしのはなし」(これは手書きアニメ)のノルシュテインなど次作が20年は経っていると思うのですが、まだ完成しません。ここまでいくと神の領域で、寿命がわれわれ凡人と同じというのは、なんとももったいないことです。神とは程遠い人間ができていない私なんか、何度セットを破壊してすべて終わりにしたいと思ったことか!! 坊さんの修行にぴったりだと思うのだが、いや待てよ、葬式坊主や観光坊主になるんなら、修行より経営学の勉強かな?

ストーリーは、奥多摩に住んでいるメカニックのキューピーちゃんと仲間の GOODMAN SPEAKERS(彼らは、奥多摩麻利子天と称して改造スバル1360GTでいつも爆走している。)が、天使を撃墜しようとしているアルファロメオ・モンザに乗った2人の悪魔と戦うという、たわいもない話です。映画によくあるキリスト教にやけに弱い悪魔物や吸血鬼物をちょとバカにした話になってます。

この作品は後に、SCAN主催のビデオアートのコンペティションに出したところ、なんとまあ入選してしまいました! 毎度の事ながらアートしたつもりはさらさらないんだけどねー。それで日本代表の1作品として、オランダのハーグで催されるワールドワイドビデオフェティバルに参加することとなりました。審査の結果がびっくり物です、世界のビデオアーティストを差し置いて入賞してしまいました!!

それでもってホテルを予約するからいつハーグに来るのか? ということなので、ノコノコと行って来ました。結構大きな催しもので、いっぱいヴィデオのブースがあって、お客のリクエストでいろいろ見れるようになってました。私も適当にリクエストして見ましたが、完全なビデオアートでチンプンカンプンです。あのキューピーのドタバタアニメがここで本当に入賞したのか? 全くもってオランダ人というのは不思議です。路面電車に乗ったときも、どこにも切符売ってないし、運転手に切符売ってとたのんでも、どこかで買えるぐらいしか言葉わからないし、そうこうしているうちに目的地に着いちゃって、ただ乗りしてしまいました。お金を払おうと努力してただ乗りしたのは初めてです。他の人はちゃんと切符を持っていて自分で! 切符を切ってました。恐るべしオランダ人!! ビデオアートの会場に、入場料払ってたくさんの子連れ客がいるのにもびっくりです。私は一本見ただけでギブアップなのに… 漫画とアニメ、バローズの火星シリーズで育った私と、ちょっと文化レベルが違うような気がしました。しかし、子連れや若い人達がけっこう私の作品をリクエストして見てくれるのを見て、下世話な日本のパワーは強力だなと感じ入った次第です。

カタログをもらったので、早速入賞者のページを見てみると、ちゃんと私の名前がありました。しかし、同じ入賞者にどっかで聞いたような名前があります。どう読んでもジャン・リュック・ゴダールと読めます。なんと! あのゴダールと一緒に入賞していたのでした。まさに事実は小説より奇なり、棚からぼた餅、猫に小判と申せましょう。